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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)250号 判決

原告 株式会社サン美術工芸

右代表者代表取締役 金森与四治

右訴訟代理人弁理士 森正澄

被告 オリジン工業株式会社

右代表者代表取締役 本間隆三

右訴訟代理人弁護士 作井康人

同弁理士 恒田勇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告は「特許庁が昭和六〇年審判第二三九九三号事件について昭和六三年九月一六日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、意匠に係る物品を「額縁用枠材」、その構成態様を別紙一(1)のとおりとし、登録第四二六四〇七号意匠(以下(件外本意匠」という。)を本意匠とする類似第三号意匠(出願日昭和五七年五月一七日、登録日昭和六〇年七月一一日、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。原告は、昭和六〇年一二月六日、被告を被請求人として、本件意匠につき意匠登録無効審判を請求したが、特許庁はこれを昭和六〇年審判第二三九九三号事件として審理をしたうえ、昭和六三年九月一六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年一〇月二二日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  請求人(原告)は、「本件意匠の登録を無効とする。」との審決を求め、その理由として、(1)本件意匠は、その出願前の昭和五六年一〇月一二日になされた意匠登録出願(意願昭五六―四四七九三号、以下「件外原出願」という。)を、昭和六〇年四月一五日、意匠法一〇条の二第一項の規定により分割出願(意願昭六〇―一五三二〇号、以下「件外分割出願」という。)した意匠に類似している(以下「請求人の主張(1)」という。)、(2)本件意匠は、件外本意匠に対する類似意匠として意匠登録がなされたものであるところ、件外本意匠及びその類似第一、第二号意匠には存在しない構成要素を内在しているものであるので、件外本意匠とは非類似のものである(以下「請求人の主張(2)」という。)。したがって、本件意匠の意匠登録は、意匠法九条一項、一〇条一項の規定に違背し、同法四八条一項一号の規定により無効とされるべきである旨主張した。

2  これに対し、被請求人(被告)は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を求め、請求人の主張(1)について、意匠法一〇条の二第一項の規定による分割出願は、原出願が同法七条所定の一意匠一出願に違反し、意匠ごとに出願されていない場合の救済手段として定められているものであるところ、件外原出願は、意匠に係る物品を通商産業省令で定める物品の区分に示された一物品である「額縁」とし、意匠の内容も、デザイン的にまとまりが認められ、物品的にも一回的取引の対象として一回的購買心を刺激するものであるから、明らかに一意匠を形成しているものであって、一意匠一出願の要件を充足しているものである。件外分割出願は、かかる出願を、その物品の構成部品ごとに分割するものであるから、適法な分割出願とは認められず、したがって、その出願日も、件外原出願の出願日まで遡及せず、その現実の出願日である昭和六〇年四月一五日と解されるべきである。そうであれば、件外分割出願は、本件意匠の意匠登録出願より後願に係ることは明らかであるから、件外分割出願に係る意匠は、本件意匠との類否を論ずるまでもなく、本件意匠の意匠登録を無効とする根拠となり得ない旨主張した。

3  そこで、請求人の主張(1)について判断する。

(一) 本件意匠の意匠に係る物品、構成態様、出願日及び登録日は前記一記載のとおりである。これに対し、件外原出願は、意匠に係る物品を「額縁」、その構成態様を別紙二(2)のとおりとし、昭和五六年一〇月一二日に意願昭五六―四四七九三号として意匠登録出願されたもの、件外分割出願は、意匠に係る物品を「額縁用枠材」、その構成態様を別紙二(1)のとおりとし、昭和六〇年四月一五日、件外原出願を意匠法一〇条の二第一項の規定により意願昭六〇―一五三二〇号として分割出願されたものであって、件外分割出願に係る意匠については、昭和六二年一二月九日、出願日を件外原出願の出願日まで遡及させた昭和五六年一〇月一二日とする意匠登録(登録第七二九二二五号)がなされている。

(二) ところで、(イ)意匠法一〇条の二第一項の規定による分割出願は、被請求人も主張するとおり、主として意匠ごとに出願されていない場合に行われる救済手段とされているところであって、意匠ごとに出願されていないもの、すなわち、願書及び図面の記載から判断して二以上の意匠を包含するものと認められるものについて、その意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とすることができるものと解するのが相当であるところ、(ロ)これを件外原出願についてみるに、同出願は、意匠に係る物品が「額縁」であり、意匠の内容も別紙二(2)に示されたとおり二以上の意匠を包含しているものとは認められず、通商産業省令で定める物品の区分により意匠ごとに出願された、一意匠一出願の要件を満たす意匠登録出願であることが認められる。そして、この点については、審査においても、同出願は意匠法三条一項三号の規定に該当するとして拒絶されているのであって、意匠の内容としては一意匠と認定され、同法七条の規定に違背しているものとはされていないことが認められる。(ハ)そうすると、件外分割出願は、通商産業省令で定める物品の区分により意匠ごとに出願された、一意匠一出願の要件を満たす件外原出願を、その物品の構成部品ごとに分割したこととなるから適法な分割とは認められず、したがって、その出願日も、件外原出願の出願日まで遡及せず、現実の出願日である昭和六〇年四月一五日であると認めるのが相当である。

(三) そうであれば、件外分割出願が本件意匠の意匠登録出願より後願に係ることは明らかであるから、件外分割出願に係る意匠は、本件意匠との類否を論ずるまでもなく、本件意匠の意匠登録を無効とする根拠とはなり得ない。

4  次に、請求人の主張(2)について判断する。

(一) 本件意匠は前記3(一)認定のとおりであり、また、件外本意匠は、意匠に係る物品を「型材」、その構成を別紙一(2)のとおりとし、昭和四七年六月九日出願に係り、昭和五一年三月三日に登録四二六四〇七号として設定登録されたものである。

(二) 本件意匠と件外本意匠を比較すると、両意匠は、意匠に係る物品について、その名称こそ異なるものの、各々の願書及び願書添附の図面の記載全体から両者とも額縁用の枠材であることが認められる。そうして、両意匠の形態に係る構成態様について、基本的に上下にのみ連続し、開口部を有する異形管体であり、その断面の態様において、特にA―A断面図をもとに認定すると、全体がおよそ頂面に小幅の平ら面を有するほぼ山形状に形成され、その左側の面を下方に直線的に延長して下端部を直角に折曲した態様であって、山形状部と直線部がほぼ同長に構成された基本的な構成態様が共通しており、その具体的な態様についても、山形状部において、右側の傾斜面を直線状とし、その先端を僅かの長さで外方にほぼ水平に折曲し、左側の傾斜面を曲線状として下方の直線部に続いており、下端部の折曲した水平部の長さが横幅の約三分の二の長さのもので、先端を僅かの長さで上方に折曲した態様の点が共通しているものである。ところが、両者間には主として、山形状部の左側の傾斜面の曲線状につき外反りであるか内反りであるかの点、及び直線部の内側に爪状突起を有するか否かの点に差異が認められる。

(三) しかしながら、(イ)外反りであるか内反りであるかの差異は、(a)意匠全体の一部位におけるもので、また、両者の「反り」ともそれほど際立った弧状のものでもないから、(b)この種物品の特徴である左右、或いは上下に連続するいわゆる長尺物の態様の中にあっては意匠全体の共通感を凌駕するほどには未だ到っておらず、両意匠の類否判断への影響は微弱なものというほかなく、(ロ)爪状突起の有無の点についても、異形管体の内側における差異であり、また、別紙一(1)の図面にも示されるとおり、小さな爪状突起でもあって、機能的な面はともかくも、意匠全体としては極めて軽微な差異で何ら意匠全体の類否判断に影響を与えるほどのものでもなく、結局類否判断の要素としても高く評価することができない。

(四) そうすると、右の差異が相俟った効果を考慮したとしても、前記(二)に共通するとした基本的及び具体的構成態様は、看者の注意を強く引くところであって、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ず、そうであれば、両意匠は、その形態について、右の基本的及び具体的構成態様によって表象される「まとまり」が共通し、これから生ずる美感をも共通にするものというべきであるから、類似する意匠であるといわざるを得ない。

5  以上のとおりであるから、請求人の主張(1)、(2)はいずれも失当であり、その主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件意医の意匠登録をもって、意匠法九条一項、一〇条一項の規定に違反するものとして無効とすることはできない。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2は認める。3(一)は認める。同(二)のうち(イ)は争わないが、その余は争う。同(三)は争う。4(一)、(二)は認める。同(三)のうち(イ)(b)は争うが、その余は争わない。同(四)は争う。5は争う。

審決は、件外分割出願の適法性に関する判断の誤りに基づき、同出願が本件意匠の意匠登録出願の後願に係るとの誤った認定をした結果、本件意匠と件外分割意匠との類否判断を遺脱し(取消事由(1))、また、本件意匠と件外本意匠との類否判断を誤り(取消事由(2))、ひいて、本件意匠の意匠登録が、意匠法九条一項、一〇条一項のいずれにも違反せず無効とすることはできないとの誤った結論を導いたものであるから、違法として取消しを免れない。

1  本件意匠と件外分割出願に係る意匠との類否判断の遺脱(取消事由(1))

件外分割出願は、昭和六〇年四月一五日、件外原出願を意匠法一〇条の二第一項の規定により分割したものである。しかして、分割出願は一出願に二以上の意匠が包含される場合に許されるのであるが、件外原出願は一出願多意匠に係るものであり、具体的には、枠材四個と額縁一個の合計五意匠を包含するところ、件外分割出願は、そのうち枠材一個を一意匠として新たに意匠登録出願したもので、適法な分割出願であるから、その出願日は件外原出願の出願日(昭和五六年一〇月一二日)まで遡り、本件意匠の意匠登録出願(出願日昭和五七年五月一七日)よりも先願であることは明らかである。したがって、審決においては、当然、件外分割出願に係る意匠と本件意匠との類否判断がなされるべきであるのに、審決は、件外分割出願が不適法であるとの誤った判断に基づき件外分割出願が本件意匠の意匠登録出願より後願であると誤認した結果、両者の類否判断を遺脱し、ひいて、本件意匠の意匠登録が同法九条一項に違反しないとの誤った判断をしたものであって、誤りである(なお、仮に件外分割出願が分割出願としては不適法であるとすれば、その出願日は昭和六〇年四月一五日であり、本件意匠の意匠登録出願に対し先願の関係に立たないから、件外分割出願につきその出願日が昭和五六年一〇月二二日と登録されていても、同出願に係る意匠と本件意匠との類否判断を求めるものではない。)。

2  本件意匠と件外本意匠との類否判断の誤り(取消事由(2))

本件意匠と件外本意匠との間に、審決摘示のような共通点及び相違点があることは争わないが、審決が、両意匠の共通点として摘示し、また、両意匠の類否判断を左右する支配的要素であるとする基本的及び具体的構成態様は、原告が審判手続において提出した、登録第三一四五三九号意匠、意願昭五七―八七三〇号意匠、件外本意匠の類似第一、第二号意匠からも窺われるように、その殆どすべてが、両意匠に係る物品たる「額縁用枠材」においては、何ら創作性の認められない従来より公知の形態にすぎず、かえって、審決が、両意匠の相違点として摘示しながら微差にすぎないとした、両意匠の山形状部の左側の傾斜面の曲線状が外反りであるか内反りであるかの差異こそが、両意匠を非類似とする決定的部位というべきである。そして、審決は、以上の判断を誤った結果、本件意匠と件外本意匠が類似するとの誤った認定判断をし、ひいて、本件意匠の意匠登録が意匠法一〇条一項に違反しないとの誤った判断をしたものであって、誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二は認め、三は争う。

二  審決の認定判断は正当であって、原告主張のような違法の点はない。なお、被告は、次に述べる他は、審決の認定判断をすべて援用する。

1  取消事由(1)について

件外原出願が「額縁」として一物品、一意匠に係るものであることは明らかであるところ、これが合計五意匠を包含するものであるとの原告の主張は、一物品、一意匠に係る「額縁」を分解するものであって、不当である。

2  取消事由(2)について

原告は審判手続においてはその主張のような点を何ら主張していないものであって、このような主張を本訴でなすのは不当である。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一及び二は当事者間に争いがない。

二  取消事由に対する判断

1  取消事由(1)について

(一)  審決の理由の要点3(一)摘示のとおり、件外原出願は、昭和五六年一〇月一二日、意匠に係る物品を「額縁」とし、その構成態様を別紙二(2)のとおりとして意匠登録出願されたものであり、件外分割出願は、昭和六〇年四月一五日、件外原出願を意匠法一〇条の二第一項の規定に基づき分割して新たな意匠登録出願としたもので、意匠に係る物品を「額縁用枠材」とし、その構成態様を別紙二(1)のとおりとするものであることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、件外分割出願の適法性について判断する。

(1) 意匠法一〇条の二第一項の規定は、一つの意匠登録出願に二以上の意匠が包含される場合、その意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とすることができる旨定めているが、右の「二以上の意匠が包含される場合」とは、具体的には、願書に記載された意匠に係る物品に二以上の物品が指定されている場合及び添附図面に記載された意匠が二以上の意匠を構成する場合のいずれか又はその双方に該当する場合を指すものと解されるところ、件外原出願についてみるに、前記争いのない事実及び《証拠省略》によれば、同出願の願書には、意匠に係る物品を前示のとおり「額縁」と指定して記載されており、これは、通商産業省令にいう物品の区分に従った一つの物品に係るものであるし(意匠法施行規則五条別表第一の十「屋内または屋外の装置品」のうち物品の区分「額縁」)、また、添附図面に記載された意匠は別紙二(2)のとおりの構成態様のもので、これによれば、物品的にも一個の「額縁」が記載されているのみであり、また意匠としても一つの「額縁」の意匠が記載されているのみであって、それ以外の意匠を含むものでないことは明らかであるから、右規定にいう一つの意匠登録出願に二以上の意匠が包含される場合には該当せず、したがって、右規定に基づき、これを更に分割して新たな意匠登録出願とすることはできないものというべきである。

(2) この点に関し、原告は、件外原出願には枠材四個と額縁一個の合計五意匠が包合されており、件外分割出願は、そのうち枠材一個を一意匠として新たに意匠登録出願したものであるから適法な分割出願である旨主張するが、件外原出願の願書の添附図面には、物品的にも一個の「額縁」が記載されているにすぎないことは前示のとおりであり、物理的には、これを四個の枠材に分解することも不可能ではないとしても、意匠登録出願に係る意匠の把握は、願書において指定された「意匠に係る物品」との関係でなされるべきものであり、件外原出願においては、意匠に係る物品を「額縁」として指定したものであり、また、添附図面にはこれに対応する一個の「額縁」が記載されているにすぎない以上、「額縁」として一つの意匠が認められるにすぎないというほかなく、原告主張のように、これを「額縁」と「枠材」に分解して複数の意匠が包含されているものと認めることは到底できないから、件外原出願に複数の意匠が包含されていることを前提とする原告の右主張は採用の限りでない。

(3) そうすると、件外分割出願は、一つの意匠のみからなる件外原出願を分割するものであって、適法な分割出願と認めることはできない。

(三)  そうであれば、件外分割出願の出願日はその現実の出願日である昭和六〇年四月一五日であると認められ、これが前記本件意匠の意匠登録出願日より後れるものであることは明らかであるから、件外分割出願は本件意匠の意匠登録出願より後願に係り、したがって、件外分割出願に係る意匠と本件意匠の類否判断をするまでもなく、本件意匠の意匠登録は意匠法九条一項に違反しないとした審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2  取消事由(2)について、

(一)  本件意匠及び件外本意匠の意匠に係る物品は、その名称こそ異なるものの、両者とも額縁用の枠材であること、その構成態様は、本件意匠が別紙一(1)のとおりであり、本件意匠の本意匠が別紙一(2)のとおりであること及び両意匠の基本的及び具体的態様には審決摘示(審決の理由の要点4(二))のような共通点、相違点があることは当事者間に争いがない。

また、右のとおり、両意匠に係る物品が額縁用の枠材であることにかんがみれば、これは最終的には額縁として組み立てて使用されるものであるから、別紙一(1)、(2)記載の意匠を構成する六面のうち、意匠上最も重要とみなされ、したがって、枠材のままでも看者の注意を最も強く引くと考えられるのはその正面図であるというべきところ、両意匠の各正面図に徴すれば、両意匠の正面形状は、いずれも、二つの平面と二つの傾斜面からなる合計四つの部分に区分され、各部分の幅、傾斜方向、配置等もほぼ一致していることが認められるから、この点においても、両意匠は、その外観を共通にするものであることが認められる。

(二)  ところで、両意匠の相違点のうち、爪状突起の有無の点については、原告も、それが本件意匠と件外本意匠との類否判断に影響を及ぼすものではないとの審決の認定判断を争わないところであるので、原告が、両意匠を非類似とする決定的部位であると主張する山形状部の左側の傾斜面の内反り、外反りの差異の点について検討する。

別紙一(1)、(2)によれば、本件意匠においては、山形状部の左側の傾斜面が極めて僅かに外反りとされているのに対し、件外本意匠では、これが内反りとされていることが認められるが、いずれも、それほど際立った弧状をなすものではなく(この点も原告の争わないところである。)、また、右のとおり、看者の注意を最も引く面である正面図との関係でこれをみても、最も外側に位置する傾斜面における差異であるうえ、これを正面からみるときは、その視覚上、反りの差異は目立ちにくいものであるものと認められるから(なお、別紙一(1)、(2)の使用状態を示す各参考図参照)、この点の差異は、この種物品の特徴である左右、或いは上下に連続するいわゆる長尺物の態様の中にあって、外観上特に看者の目を引きつける程度のものとまで認めることはできないというべきであり、全体として観察すれば、前記両意匠に共通する基本的及び具体的構成態様や正面形状から受ける印象を凌駕して、看者に格別の美感又は印象を与えるものともいい難いから、これをもって、両意匠の類否を左右するような構成上の差異と認めることはできない。

(三)  なお、原告は、審決が、両意匠の共通点として摘示する基本的及び具体的構成態様は、その殆どすべてが、両意匠に係る物品たる「額縁用枠材」においては従来より公知の形態にすぎない旨主張し、その点を立証するために甲第七号証、第八号証の二及び第一〇、第一一号証を提出するが、このうち、成立に争いのない甲第一〇、第一一号証に記載された意匠については、基本的及び具体的構成態様が前記審決摘示の基本的及び具体的構成態様と共通するものであることが認められるものの、右甲号各証に係る意匠は件外本意匠の類似意匠であることから、このことは、むしろ当然のことにすぎないし、成立に争いのない甲第七号証、第八号証の二に記載された意匠にしても、その基本的及び具体的構成態様が前記審決摘示の基本的及び具体的構成態様と共通する点があることは否めないが、この点を考慮しても、本件意匠における前記のように視覚上目立ちにくい山形状部の形状に看者が特に注目するとは認めがたいうえ、前示のとおり、この種物品の意匠上最も重要な点であるその正面形状をみると、本件意匠が前記(一)認定のとおりのものであるのに対し、甲第七号証の正面形状(平面図)は、三つの平面と二つの傾斜面からなる合計五つの部分に区分され、その各部分の幅も本件意匠のそれとは異なっており、また、甲第八号証の二の正面形状(正面図)も、一つの平面と二つの傾斜面からなる合計三つの部分に区分され、その各部分の幅も本件意匠のものとは異なっていることが認められるのであって、一見、審決摘示の基本的及び具体的構成態様に共通性があるようにみえても、その最も重要な正面形状の外観、印象を異にするものというべきであるから、これらの意匠の存在を根拠に、本件意匠と件外本意匠の類似性を否定することはできない。他にこれを認めるに足りる証拠もないから、原告の右主張は採用できないものというほかない。

(四)  そうすると、本件意匠と件外本意匠とは、その基本的及び具体的構成態様並びに意匠上最も重要な正面形状をも共通にするもので、前記相違点も、全体として観察すれば、これを非類似の意匠とするに足りず(別紙一(1)、(2)によるも、他に両意匠の類否判断を左右するほどの差異を認めることはできない。)、また、両意匠は意匠に係る物品を共通にするものであることも前示のとおりであるから、本件意匠と件外本意匠とは類似するものというべきである。そうであれば、原告主張の理由によっては、件外本意匠の類似意匠としてなされた本件意匠の意匠登録をもって意匠法一〇条一項に違反するものとすることはできず、これと同旨の審決は相当であるから、原告主張の取消事由(2)も理由がない。

三  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他にこれを違法とすべき理由も認められないから、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 小野洋一 裁判官川島貴志郎は転任につき署名押印できない。裁判長裁判官 松野嘉貞)

〈以下省略〉

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